榛澤淳さんインタビュー

元西武鉄道で7年、H.C.栃木日光アイスバックスに移籍し、活躍された榛澤淳さん。取材時、トップリーグの選手として10年という歳月を在籍されていたことに触れると、榛澤さんはご自身を振り返り、「ラッキーだったんだろうね」と一言。指導者として俯瞰した視点を持たれるのは、ご自身が選手、コーチ、息子さんをアメリカのジュニアチームに送り出された親御さんと、それぞれの立場での経験を糧にされているのではないかと感じました。これからを担う、ジュニア世代の育成に努める榛澤さんに語っていただきました。



―――トップリーグの選手として、活躍されていたと思いますが、その経験がコーチとして活かせているところはどこでしょうか?

榛澤 フォワードだったのでフォワードだけに特化して言えば、点数の入りやすい攻め方、この瞬間パスをだしたら点数が入る確率が上がるということが感覚でわかります。経験がある分、違うかなと思います。



―――アイスホッケーのコーチをやろうと思ったのはなぜでしょうか。

榛澤 高校を卒業し、トップリーグで10年プレーをしていた頃から“引退した後もアイスホッケーを続けたい”と思っていました。いま、日本のアイスホッケー界は20年、30年前に同等、もしくは勝っていた国に追い越されたりしています。お世話になったスポーツなので、発展させていきたいなという気持ちがあったのも理由のひとつですね。そしてジュニア世代の指導者を選んだのは、これからの選手を育てていかないとシニアになっても強くならないから。そういう底辺になる選手を育成したいなというのがありました。本気でホッケーに向き合い、プロになりたいという選手が増えてくれればいいなと思います

榛澤淳



―――現在、どのような業務形態で働いているのか教えてください。

榛澤 清水町アイスアリーナ職員として働いています。役場の代わりにスケートリンクの管理や、リンク上で選手たちを指導するのが仕事です。アイスホッケーを教えているのは小学生から高校生。学校が終わった後の16時から22時まで練習をしています。だいたい平日は基本指導、週末は試合を中心に練習しています。



―――どのような指導をされていますか?

榛澤 学生が来る数時間前にリンクに来て準備をしたり、ミーティングの為の材料・ビデオクリップを作ったり、下準備に時間を掛けています。コーチの言葉だけでの指導より、映像を見ながらのミーティングだったら選手の中に入り込むのも早いです。北米プロ選手の試合カットを見せて、「北米ではこういうプレーをしているよ」とか、自分達と同じ場面を見せて「日本人はこういうところがダメなんだな」など、そういうことが入りやすいように思います。また、小学生の場合は、選手とコーチで見た動画をコメントも全部書いてYouTubeにアップし、親御さんと一緒に見てくださいと伝えます。アイスホッケーのことがわからない親御さんは沢山みれるので、子どもと一緒に勉強ができ、有難いと言ってもらえます。トップリーグのプロ選手になってからはありましたが、学生の時はビデオミーティングが無かった。でも今は、YouTubeに動画をアップすることで、自分が見たい時に何回でも見直しができる。情報共有として作るビデオクリップが役立っています。

榛澤淳



―――幅広い年齢を指導されていますが、選手を年代別で見た時に多少コーチングが変わってきたりしますか?

榛澤 アイスホッケーは滑るのが基本なので、スケーティングのフォームだったり、あとエッジワークといって、スケートをする時に足の内側・外側・前側・後側に乗ったりする練習をしています。自分の経験ですが、スティックでパックを操る“ハンドリング”という技術やシュート、パスなどの基本的な技術は、だいたい10歳ぐらいまでにほぼ決まってきます。それまでにスキルを身につけさせようと心がけているので小学校3、4年生ぐらいまでは基礎をみっちりやって、それ以降に繋げています。でも、小学校5、6年生になって基本を全てやらなくなる訳ではないです。例えば1時間の練習だったら20分ぐらいはそういった基本を、それからチームプレーの練習、敵を一人、味方を一人つけて人数を増やしながらパスを回したり、小さいエリアで色々なゲームをしたりしながら、パスの回数増やしていく。10歳までに覚えたことを今度は応用的に練習していく感じです。



―――最高な経験や、この瞬間感動したことや興奮したことはなにかありますか?

榛澤 小学生のチーム『清水御影アイスホッケー少年団』で目指している大会、北海道選手権に優勝したこと。本シーズンも含めた3回、優勝経験があります。その中でも7年前の第33回全道小学生アイスホッケー選手権大会で初優勝した時が一番印象に残っています。前年に準決勝までいきましたが、1分前に逆転されて負け、夢が叶わなかった。「大会に優勝、忘れもんしてきたな。取り返しに行くぞ」って、1年間頑張って勝った時は、喜びもひとしおでした。



―――北海道清水高等学校も指導されていますが、何年目になられますか?また、長く指導するうえでメリットや、難しさはありますか?

榛澤 清水高校は指導をするようになってもうすぐ15年目です。外部コーチとして雇われているので、最新の情報をキャッチして選手に指導をしなきゃいけないというのもあるし、それができなくなったらもう辞めなければいけないと思っているので、長年やって優勝させてあげられてないというのは一番自分でも…。私立高校ではないので特待生での選手獲得ができず、来てくれる選手だけでどう戦うかという難しさはあります。でも、私立高校の特待を得られず、それでも「強豪校でアイスホッケーをやりたい」と言って清水高校に来てくれる奴もいます。そういう奴を育てて、私立高校に勝つと嬉しいですね。

榛澤淳



―――清水高校での感動したことや興奮したことを教えてください。

榛澤 コーチ指導をはじめて間もない頃、帯広で行われた第58回全国高等学校アイスホッケー競技選手権大会。準々決勝に駒大苫小牧と試合をして勝ち、準決勝の対戦相手が白樺学園でした。白樺学園とは当時、勝ったり負けたりが多くて、その試合も延長戦で決まらず、サッカーでいうとPKのような状態になりました。アイスホッケーでは、“シュートアウト”や“ゲームウイニングショット”という呼び方ですが、3人ずつ出てきて、多く入れた方の勝ちに決まります。そこでも同点になると一人ずつ出てきてサドンデス。どちらか決めるまで続くわけですが、その時は7人目ぐらいまでいきました。最終的に白樺が優勝しましたが、もしその試合で清水高校が勝っていたら…ちょっと違っていたかもしれないな。印象に残っています。小学生・高校生チーム、どちらも思い出す試合は沢山あります。



―――榛澤コーチからみて、例えばフォワード選手はこんな感じとか。選手のポジションの性格を考える部分はありますか?

榛澤 アイスホッケーの出場選手はディフェンス2人とフォワード3人、キーパー1人の1セットです。それが第1セット目、第2セット目…と続きますが、第2セット目までに試合のリンクに上がれるフォワードの選手は6人。トップ6になる選手はやはりチームの中心選手です。性格的にもガツガツしているというか、自分を持って試合に臨んでいる選手が多いと思います。第4セット目ともなるとアイスタイムが少なくなるので、トップ6の選手に比べると性格性は違うかなと思います。セットや選手によって求めていることも違います。例えばリンクに上がる10番目、11番目、12番目の選手には、守りの部分で貢献してもらいたいのですが、ある選手は中学生の時トップ6に入るフォワードの経験があり、あまり僕が言っていることを理解できなかったりしたこともありました。そういう時は動画を見せ、「こういうプレーが勝つために必要なんだ」とか、「これをやればさらに上へいけるかもしれない」と、選手と話をします。自分はなぜこのプレーをしなければいけないのかということをちゃんと教えながらやっていますが、それが一番難しいとろですね。ビデオミーティングの時も動画を使いますが、活躍した選手のいいプレーの動画ばかりを見せるのではなく、例えばシュートを体でブロックしたり、体を張って護ったりするプレーについてもよく見せています。



―――高校の指導と、U18日本代表での指導。かぶってくる選手もいると思いますが、携わり方とか立ち位置は変わってきますか?

榛澤 向かう目的は一緒です。でも、伝え方だったり方法だったり、選手との関わり方は変わりません。高校と代表で変わってくる所は、「試合の入りはこういう風にいこう」とか、「相手はこういう特徴があるから、こういうシステムでいくよ」など、高校で教えるより代表で教える方がよりシステムが複雑になり細かい指示になることです。自分が指導のなかで大切にしていることは、断然コミュニケーションです。今の学生スポーツの監督は学校の先生が多いので、プライベートの話をあまりできないと思いますが、僕は外部コーチなのでそういう面では選手も心を開いてくれていると思います。いいコーチの仕事とは、選手を目標達成の場所に連れていくこと。一方通行にならないように心掛けています。選手とお互い話し合って信頼関係を築くことが大事かなと思います。



―――アイスホッケーのコーチはポピュラーなのかどうか、目指す人は多いですか?

榛澤 目指している人は沢山いるかもしれませんが、選手人口は多くないですね。コーチだけで生活をしている人は多分ほとんどいないと思います。北海道のチームで例えれば、インターハイでベスト8以上に入るチームは、大体トップリーグ上がりのコーチが外部コーチとして入っていることが多いです。優秀なコーチが数名います。例えば、U18のコーチとして、一緒に指導したことがある山中武司コーチ。トップリーグで王子イーグルスの監督を退任後、2年前までアイスホッケー女子日本代表(スマイルジャパン)監督をされていましたが、今はカナダで2年間ホッケー指導の勉強をし、ジュニア世代のコーチを務めています。向こうにいるから情報量も違います。いつもメール交換をしいて、「カナダでこういう練習をやっていたよ」とか、コーチクリニックを頻繁にやっていて、動画を送ってもらい、システムの情報共有をしています。新しいシステムはどんどん増えていくので世界を知るために情報は必要だと思います。あとは、海外選手は体が大きいので、ぶつかり合いなど、そこは向こうのアイスホッケーを真似していても勝てないと思うので、バックの取り合いなど日本人に合ったものを見つけて臨機応変にやらなければいけないなと思います。



―――これからのアイスホッケー界で、こうなったらいいなぁと思うことはありますか?

榛澤 たくさんあります。コーチングの資格について。アイスホッケーに関する資格は日本体育協会『公認アイスホッケーコーチ』しかなく、その資格を持ってなくても現状は指導ができます。いきなりはじめても自分の感覚でやるだけになるので、コーチの勉強をしてから現場に来た方がいいと思っています。そして試合をリーグ戦にしてほしい。日本のアイスホッケーは、トーナメント戦なので一度負けたら終わり。ですが、トップディビジョン(世界一決定戦)は、全部リーグ戦になっていて、プレーオフがあります。プレーオフの後、試合前にチームの分析をして戦い方を変えることで勝敗も変わります。選手も分析の結果を理解して、ちゃんと試合に入り込めるメリットがありますし、選手だけではなく、コーチもレベルアップできる。出場機会や経験値を上げる意味でも良いと思います。そして最後に、一番言いたいのは“クラブ”について。基本は学校に所属して、部活動で各スポーツの連盟が主催する大会に出ていますが、それではなく地域にクラブを作ってやって欲しい。なおかつレベル分けをして、試合をしてほしいです。インターハイでみると、1回戦で50対0という試合もありますが、それではどちらに対しても意味が無い。例えばインターハイでベスト16以上に入るチームはそのチームだけで試合をやったり、それ以下のチームはそれ以下でやったり、チームのレベルに合わせたクラブが必要だと思っています。



榛澤 淳(はんざわじゅん)・・・1976年 2月 9日生まれ。
北海道釧路工業高校→西武鉄道→日光アイスバックス
U18日本代表コーチ
清水御影アイスホッケー少年団コーチ(小学生)
北海道清水高校コーチ(高校生)
十勝ジュニアアイスホッケークラブ(監督)