嘉数陽介さんインタビュー

現在、ハンドボール女子日本代表のアナリストを務める嘉数陽介さん。小学生から大学までハンドボール競技者で、その後、ハンドボールコーチを目指すが、様々な縁からアナリストの道へ。「将来はやはりコーチを目指しています。ただアナリストのスキルは今後のコーチングにも必須だと思います」と。アナリストの最前線で活躍する嘉数さんから貴重な話を伺った。

嘉数陽介



―――アナリストというお仕事は、基本的に選手の分析、チーム又は相手チームの戦術分析という所がお仕事ですか?

嘉数 今、仰って頂いたものは正解と言えば、正解です。アナリストの仕事は多岐に渡っていて、僕がメインでやっているのは主にハンドボールの戦術的なパフォーマンスを分析する仕事です。それこそアナリストが3人も4人もいればできることも広がってきます。例えば、選手のコンディショニングの状態を数値化することを行っている人もいます。



―――ハンドボールは、昔からアナリストのような方はいたのですか?

嘉数 正直、アナリストの専任者が設置されてからは、まだ4年とか5年位しか経っておりません。アンダーカテゴリーなど全てのカテゴリーにアナリストが帯同するようになったのも、数年前のことなんです。とはいえ、アンダーカテゴリーの世界大会に行っても、アナリストが帯同しているのは50%程度でした。シニアの世界大会になると強豪国には必ず一人は情報分析者がついていますが、この分野においては、日本が牽引できる可能性を感じています。日本のハンドボール界で私の周りにいる優秀なアナリストの方々は、世界に劣らないと確信しています。



―――アナリストのお仕事のタイムスケジュール的なものを教えてください。

嘉数 基本的には活動期間が「試合前の合宿期間」と「試合期に入ってからの大会中の活動」で、行う内容はかなり変わります。合宿に入る前の準備期間では、色々情報を整理や準備を行い、合宿に入ってその情報をスタッフ・選手に渡します。プラス合宿の時に自分達のチームの分析をしながら、どこが良くてどこに課題があるかというコーチング支援も行います。大会期間に入ると、試合に向けて相手の分析と我々の振り返りと両方進めながらミーティング資料を作ります。
という感じで内容は大きく変わりますが、一番大変なのはやはり大会期間中です。とにかくスピード感を持って相手チームの分析をし、次の日は相手の弱点や傾向を監督、コーチに伝える必要がありますし。

嘉数陽介



―――他国のアナリストと仲良くなるという噂も聞いたことがあります。

嘉数 試合に行くとアナリスト席には各国のアナリストがいて、顔見知りになったり、お友達になったりします。よくお互いの国のお菓子をお土産に持って行って、あげたりもらったりするんです。そうやってコミュニケーションをとりながら、「どういう分析してる?」とか「どういうソフト使ってるの?」なんて情報交換します。時には編集前の対戦国の映像をコピーさせてもらうこともあります。どうしても顔出せない試合などもあって、すぐにそのデータが欲しい場合は非常に助かります。選手団はコンディショニングを考えて、試合が終わったらすぐにバスで帰るのですが、僕らは場合によっては次に闘う相手の映像を撮ったり、分析したりするので、1人だけ残ることがあるんです。ジュニアの女子の選手権に行った時は、ロシア会場からの行き帰りの手段がなくて、タクシーを捕まえるにも危険な所だったので、オランダチームの人に「帰りに乗せてほしいんだけど」と声をかけて、オランダチームのバスに乗せてもらって、帰ってきたこともあります。

嘉数陽介



―――アナリストって、PCをパチパチ打っている内向的な人かと思ったらそんなことなく、コミュニケーション能力が高いんですね

嘉数 どうなんですかね(笑)、僕の性格的な所で言えば、元々、社交性があり、いろいろな方と情報交換するのは好きだったかもしれません。ただコミュニケーションできた方がコーチ・監督・選手とコミュニケーションが取りやすいことも大きな利点になりますし。もちろんコミュニケーション能力も大切ですが、僕が思うのは、監督のためにとか選手のためにとか「人のために何かをする」のが好きな人は、頑張ればアナリストになれると思います。



―――話は変わりますが、アナリストとして気を付けていることはありますか?

嘉数 データの使い方でしょうか。選手に対してデータを全て出すことが良いこととは限らない。視覚情報は残りやすいので、固定観念を作ってしまいがちなんです。相手のプレー分析だけを見せてしまうと、ゲームで違うプレーが出てきた時に迷いが生じてします。それならば言葉だけでマインドセットした方がいい場合もあります。
 アナリストとして、データ分析が「目的」になることが一番危険で、最終目標はあくまでも選手の意思決定を支えるデータ、監督の戦術意思決定を支え、そこに生かすためのデータ、「勝つためのデータ」でなければいけないのです。出さなくていいものは出す必要はないのです。

嘉数陽介



―――選手個人のパフォーマンスも言い方ひとつで変わってくるものですか?

嘉数 そうですね、言い方もそうですし、どこまでのデータや映像を見せるかは結構、気を付けています。ポジション別で各個人からオーダーがくるとこもあります。例えば、調子が悪い選手は、「もう1回失敗したシーンを見直したい。それでもう1回課題を洗い出したい」と言われれば、いつでも見られるように加工して、その選手にプレー集を渡します。逆に調子が悪い選手で失敗シーンを見るよりも、良いイメージを作りたいから良いプレー集が見たいという選手もいます。良いプレー集も単純に点を決めたシーンだけではなく、シュートは外れているけど、良いフォームで打てているシーンなんかもいれます。
 その時々、選手の顔を見ながら「今、この選手は気落ちしてるんじゃないか」など、確認もします。なぜなら疑心暗鬼になっている時に失敗シーンだけを見せても意味がないですから。それよりも良いプレー集を作って、「もう1度、こういうイメージで試合しましょう」とした方が情報は活きてきます。

嘉数陽介



――――そもそも嘉数さんはどうしてアナリストになろうと思ったのですか?

嘉数 実は最初からアナリストを目指していたわけではないんです。僕は小学生の頃から大学までずっとハンドボールの競技者でした。大学4年の時にコーチの勉強を始めると、師匠でもある東海大学の教員でもある栗山(雅倫)先生が女子ハンドボール部の監督で、しかも日本女子代表の監督だったんです。こんな機会はないと思い、栗山先生の元でコーチングを学ぼうと大学院に進学しました。大学院では、実践として男子部のコーチとして現場でコーチングを勉強しながら、研究+研修という形で、日本女子代表チームの見学もさせてもらいました。そういうご縁があり、栗山先生から「アナリストなら少し日本代表に関われる機会が得られそうだ」ということで、それからアナリストの最低限のスキルを猛勉強しました。そもそも映像の編集なんて全くやったこともなかったですし(笑)。ただ元々、理系でしたし、数値分析的なものは嫌いではありませんでした。こういう様々な状況が重なって今、アナリストをやっているんです。



―――結構、独自のルートでアナリストになられたんですね。「これからアナリストになりたい」という方は、どういう手段を取るのがよいのでしょうか?

嘉数 アナリストは各競技にいますが、ハンドボールに限っては、まだアナリストになるプログラムは確立されていないような状況です。現在のハンドボールのアナリストの状況は、ハンドボール協会には情報科学専門委員会という委員会があって、基本的にはそこから全カテゴリーの大会や合宿にアナリストを派遣しています。この委員会のアナリストは、本業が大学の教員だったり、高校の先生だったりで、僕も情報科学委員スタッフの一人ではあります。ただどの競技団体もどうアナリストを育成するかということに汗をかいて頑張っている状況です。例えば、バレーボールは、必ず各大学から学生をたくさんよんで、スキルを身につける研修を実施しています。バスケットボールもアナリスト育成というプログラムで人を集めたりしています。ハンドボールも今後、このようなプログラムが確立されてくることを願っております。

嘉数陽介



―――アナリストという存在はこれから必要不可欠になっていきますか?

嘉数 もちろんなっていくと思います。データ分析は、監督、コーチにとっても説得力が増すことにも繋がるので、非常に重要な仕事になっていきます。ただ分析をする上でチームとして、どういうプレーをするかという根幹な部分は忘れてはいけないと思っています。僕らも混乱しがちですが、データに踊らされてはいけないのです。僕がこれまで師匠の栗山先生に習ってきたことは、勝負の鉄則として「己を知る」「相手を知る」ということを通して、「我々の強みを最大限発揮する」という視点で分析をすることを大切にしています。相手の強みをいなすだけの分析では、「我々の強み」を見失ってしまうことになるんです。やってきたことを出さずに相手に合わせた戦術になってしまうのが一番よくありません。これは本当に気を付けないといけないと思っています。ですので常に監督と相談しながら「データではこうだけど、このままでいきましょう」とか「一気に変えてBプランでいきましょう」など進めていきます。データはあくまでも「判断を助けるものだ」ということを忘れないようにしています。

嘉数陽介



―――嘉数さん自身の今後の目標は?

嘉数 ハンドボール協会の強化、そういうお手伝いはずっとしていきたいと思っています。世界各国を飛び回り、長く代表を見てきましたし、各国のデータの資料作りもしてきましたので、今後もこれを活かしていけたらと思っています。私個人的なことでいうと、JOCの海外研修の若手指導育成の選考に選ばれましたので、デンマークのチームなどでコーチングの勉強を2年間、しっかりと学んで日本に帰ってきたいと思っています。



嘉数陽介(かかず・ようすけ)・・・1992年1月22日生まれ。沖縄県出身。出身校・東海大学。 所属・公益財団法人日本ハンドボール協会