亀岡舞さんインタビュー

スポーツトレーナーとして、何ができるか。10代の頃から選手をサポートしたいと考えていた亀岡舞さん。大学・大学院とトレーニング指導の知識を深め、卒業後は岐阜県スポーツ科学センター(GSSC)へ就職。そして5月29日にオープンした、とちぎスポーツ医科学センター(TIS)の指導員として、新たなスタートを切ります。亀岡さんはスポーツ業界ではごく少数の女性のストレングス指導者。なぜ、この仕事をはじめようと思ったのでしょうか?ブレの無いストイックな精神と、インタビュー中、選手に対する想いを語る時の優しい笑顔はとても印象的でした。チームと選手一人ひとりを支え続けてきた亀岡さんのこれまでと、今、そしてスポーツ業界のこれからを語っていただきます。

亀岡舞



―――はじめに、亀岡さんが、トレーニング指導者を目指したきっかけを教えてください。

亀岡 高校生の頃、バレーボール部でしたが、自分よりも上手い人たちがいすぎてレギュラーを辞め、サポート側に回って勉強をするようになったのがはじまりです。選手の勝ちにつながるようなサポートは何だろう?体を強くするとかトレーニングが直結しているのかなと考えました。また、東海大のバレー部との練習試合があったこともきっかけのひとつです。来ていた、ストレングス指導者が選手とすごくいい雰囲気を築いているのを見て、こういう仕事いいなと思いました。それで選手のサポートを勉強するために、その人がいた東海大学へ進学しました。最初は学校の先生になろうと思っていましたが、大学でバドミントン部に就いてから考えが変わり、教員試験を受けるのをやめました。女性チームの選手たちが抱える様々な悩みを知って、専門的な知識を学んで、勝負に直結するようなところで選手と関われたら面白いなと考えたからです。

亀岡舞



―――ちなみに、東海大学からそのまま大学院への進学という道もあったと思いますが、順天堂大学院を選んだのは何か意図的な部分があったのでしょうか?

亀岡 東海大学で運動生理学を教えてくださった町田修一教授との出会いですね。先生のゼミで勉強をしていた頃、「もうちょっと色んなところを見てみろ、お前も」って背中を押され、セミナーなどに参加しました。また翌年から女性のサポートについての企画が順天堂で立ち上がるのを知り、「あっ、順天堂に行こう」と思いました。町田先生に多分仕向けられたのもあるかもしれませんが、先生に「俺も順天堂大学院へ転任するんだ」って言われて(笑) 先生のもとで学ぶため、一緒に順天堂大学院に進みました。 その2年間はトレーニング指導がほぼできず、研究に明け暮れていましたね。

亀岡舞



―――そして卒業後、岐阜県スポーツ科学センターへ就職されました。フィットネス系に女性のトレーニングの指導員は多いと思いますが、競技スポーツに関わる人は少ないですか?

亀岡 そうですね。ストレングス指導者が集まるカンファレンスや総会に参加しても男対女だったら7:3か8:2ぐらいでした。指導者・コーチ陣では、出産とか育児とかでチームには関わっていないという女性も多いです。



―――女性の選手を受け持つことで、自分が女性のストレングス指導者で良かったなと思うところはありますか?

亀岡 月経前の不安定な感じや、生理痛に対する痛みについての相談を聞いたり、体重や見た目を気にしていたり。女性選手が抱えている悩みに共感できることが良かったです。あとは、どういう言葉を掛けてもらうと嬉しいかとか、そういう気持ちは本当にすごくわかります。女性同士だからというデメリットについて感じたことはありませんが、選手にとって指導者が良くない言い方や態度だったりすると真意が伝わらず、女子の関係はすぐに崩れてしまうことがあります。だから大切にしていることは、選手を絶対的に尊重、尊敬をすることから絶対に入ろうと思っています。それが高校生でも中学生でも大学生に対しても一緒です。別にトレーニングをやってほしいから言っている訳ではないです。その人を心から好きにならないと、選手に言葉や気持ちは伝わらない。まずは自分がサポートする選手を尊重することです。「トレーニングを今日やめたい」といわれたら、「じゃあやめよう」と言えます。そういう信頼関係をこれからも築いていきたいなと思っています。



―――県により多少違うと思いますが、仕事内容や形態を教えてください。

亀岡 岐阜県スポーツ科学センターは朝・夜勤務と勤務時間がわかれています。定休日は毎週日・月曜日と祝日。施設にトレーニングに来る選手のサポートやチームの試合、合宿を含む指導のために夜遅くまでサポートをすることもありました。また、年間を通して様々な競技選手のサポートもしていて、バイオメカニクス的な手法を使った測定や体力測定など選手の動きや体づくりのための測定も各専門のスタッフと共に実施していました。岐阜県スポーツ科学センターは、専門的な知識を持ったスタッフが(県が指定した)チームや選手を徹底的にサポートしていくというスタンスがあります。とちぎスポーツ医科学センターではこれから朝勤務、夜勤務が交互になっていきます。第一に2022年の国体に向けてバックアップをしていって、自分の力で課題を解決できるアスリートの養成を目指しているというスタンスです。栃木県では、一般向けに健康寿命を延ばすための運動や部活動などのサポートをひろめていく事も目標の一つとしているので、大学院卒業の縛りがなかったり、専門的な知識を持っていなかったりしても携わることができます。県によって取り組み方は様々です。

亀岡舞



―――県を越えて仕事を移られたのには理由があったのでしょうか?

亀岡 岐阜県スポーツ科学センターで5年の任期を迎えた時、そのままプロパー社員として続けることも考えましたが、これまでの岐阜県での経験を生かせる場所も同時に探していました。その時に、たまたま会った人から「栃木県にはあまりトレーニングの文化が根付いてなくて、ストレングス専門の指導者も少ない」という話を聞きました。実は他にも「大学のここのポストが空いているからどう?」みたいな話を何個かいただいたり、知り合いの先生から聞いたり、チームに就職するという道もありましたが、なぜか心が動かず、聞いた話が忘れられませんでした。決めた理由はとちぎスポーツ医科学センターができると聞いて。栃木県だから行ったというより、必要として貰える部分があったからですね。トレーニングは共通しているところがありましたが、取り組みの違いに惹かれました。とちぎスポーツ医科学センターには、アスレティックトレーナー(AT)とスポーツ栄養士とメンタルトレーナー、ドクターなど様々な専門家の皆さんがおり、今まであまり関わりの無かったATさんと一緒に働けるということが自分の中で大きかったと思います。今までやってきたことがより広く、違うかたちで活かせるなと思いました。

亀岡舞



―――これまでの経験や、やりがいを感じたことを教えてください。

亀岡 ハンドボールの社会人チームに5年近く関わっていました。あとはソフトボールチームやバスケットボールの高校生チーム。個人だったらスノーボードの世界チャンピオンになるような姉妹のトレーニングサポートなどです。世代を問わず女の子のサポートをすることは多かったです。高校生と高地トレーニングへ合宿所に行って、一週間ぐらい缶詰をした経験もあります。私のトレーニングを中心に全部日程を組んでくれるというような合宿で。嬉しかったのは、合宿が終わって学校に戻ってきてから「これはパワー発揮をするからやっているんですよね」って生徒が自分からトレーニングをやってくれたこと。一緒にトレーニングをする時、やりがいを感じます。



―――いまのエピソードは前向きな選手についてですが、トレーニング嫌いな選手はみえますか?また、そういう選手にはどのような指導をされていますか?

亀岡 (社会人チームのトレーニングで)好きじゃないとは直接言われませんが、見ていてトレーニングが好きじゃないのかな?と思う選手はいました。みんなと一緒のことをやり続けるっていうのが嫌いみたいでした。その人には、個別に話して一緒にプログラムとかを考えます。選手をやっている以上は絶対トレーニングは必要だって、嫌いでもその必要さは本人もわかっているので、そこに対して、本当に一個二個でもいいからアドバイスをします。それを理解・納得したら絶対やってくれるというのがこの何年間の経験でわかっていました。トレーニングが嫌いだからってやらせないとかではなく、まず個別で話をします。なんで嫌いなんだろうと考えた時に、「嫌い」というより、より高度なことを考えている人だなと思います。



―――指導者として感動したことや興奮したことを教えてください。

亀岡  岐阜女子高校女子バスケ部の2年間のトレーニング指導です。ウインターカップ2018で優勝。二年目のウインターカップ2019でも準優勝を果たしました。その試合を見た時は感動しました。本当に素晴らしいチームです!監督、コーチ陣始め、選手自身が色々な準備をしてきているということですね。「もうこれ以上準備のしようがないよ」っていう、域までたどり着いた時に、日本一を狙う場所までいけるのだということが分かり、勉強になりました。この経験を沢山の人に伝えられたらいいなと思います。そしてもうひとつは、飛騨高山ブラックブルズ岐阜(社会人のハンドボールチーム)が試合ギリギリで勝った時。その時はリーグ中間で、順位が決まる試合でも引退する選手がいたわけでもありませんでしたが、号泣するくらいの涙が出て興奮しました。選手たちがこれまでにしてきた努力を知っているからこそ、勝った時は本当に嬉しい。試合の結果に関わらず、この仕事が止められなくなる瞬間ですね。

亀岡舞



―――今後の日本のスポーツ業界について、この立場として期待したいことを教えてください。

亀岡 今はラグビーなどの影響もあって、体づくりなどスポーツにスポットが当てられることが増えました。ですがチームの状況を見ると、雇えるスタッフがATさんや治療系のスタッフが優先されがちです。クラブ、チームの運営は本当に大変だとわかりますが、ストレングスという最近知られてきた部分もやはり専門として雇う必要があるという認識を持って欲しいです。トレーナーはひとくくりじゃない。もちろんメンタルトレーナーもいるし、ATもいるし、ストレングスもいる。一人が全部できればいいのかもしれないけど、それには限界はあると思います。だからこそチームや選手にそれぞれの専門家が必要だというのを、まず知ってもらえたらいいです。もちろん、それはプロじゃではなくても中学生も高校生にも言えることです。「自分の力で日本一にさせてやる」なんてもう、とんでもない!日本一になった岐阜女子高校バスケ部のように、試合までに選手がする準備の一部として、私達スタッフが関わります。選手が準備する上での材料になれればと願っています。



―――いま、ストレングスを目指している人がこのホームページを見ていたら、どんな一言を伝えたいですか。

亀岡 狭き門じゃないですよということがひとつ。ストレングスという分野を極めようと思えば、仕事にしていくことは可能だし、本当に狭き門じゃないと思います。同じ目標に対して選手は選手の役目をして、私は私の役目をして、他のトレーナーのスタッフはスタッフの役目をして。みんなで作り上げていく。具体的に選手の強化に関われるというのはすごく楽しいことです。そのことを伝えたいと思います。



亀岡 舞(かめおか まい)・・・公益財団法人 栃木県スポーツ協会 とちぎスポーツ医科学センター 指導担当専門員