金子真輝さんインタビュー

現在、福岡ソフトバンクホークスでスペイン語通訳をされている金子真輝さん。通訳とは「どれだけ尽くせるかということ」と、外国人選手のサポートを通してチームの勝利へ貢献されています。プロ野球界の通訳というお仕事について伺いました。



―――プロ野球の世界で通訳というお仕事をすることになったきっかけを教えてください。

金子 元々は教員になり、野球の指導をしたいと思っていました。ただ、自分はレベルの高い野球を知らない。一度プロの世界に入り、野球で活躍している人が毎日どのような気持ちで何をしているのかを知ってから、教員になりたいという思いがありました。
 大学生の時にジャイアンツアカデミーの研修を受けるなどしていたのですが、結局働くことはできませんでした。ちょうどそのタイミングで、海外志向の強い方々や海外に精通している方々のお話を聞く機会が増え、語学や中南米の野球に興味を持ち始めました。それで、知らない世界を経験したい、中南米の野球が見たいと思った時にJICAの青年海外協力隊という選択肢が出て来ました。語学や海外、プロの世界と言う自分の興味を掛け合わせたときに、プロ野球でのスペイン語通訳というお仕事がぴったりだと思いました。

金子真輝



―――では、通訳になるために青年海外協力隊に応募された?

金子 そうですね。通訳になるために協力隊に応募しました。プロ野球界で英語とスペイン語の通訳の数は当時思っていたより大差ないくらいです。日本人でも英語を話す人はたくさんいますが、スペイン語を話す人は少ない。野球をある程度わかっていてスペイン語を話せると言う方がの分母が少ないですし、球団も興味を示すのではないかと考えていました。ですので、スペイン語圏にしか応募しませんでした。
 初めは行けばスペイン語が話せるようになると思っていました。ただ、そんなことはなく、通訳になるには勉強しなければならないと気がつき、自分なりに勉強を始めました。海外に住んだ経験が、今日本に住んでいる外国人選手たちの気持ちを理解することにも役立っています。

金子真輝



―――今の通訳のお仕事はどのように見つけられたのでしょうか?

金子 コスタリカにいるときに、広島東洋カープ以外の11球団全てに履歴書や自己PR文、コスタリカの同僚の推薦書を送りました。広島東洋カープはドミニカにアカデミーを構えており、独自のルートがあると聞き可能性が少ないかなと思い、送りませんでした。
 そのとき、どの球団も通訳の募集はかけていませんでしたし、必要かどうかもわかりませんでした。でも、「もしかしたら、必要になるかもしれない!プロ野球の球団で働きたい!」という強い気持ちを持って11球団に向けてアクションを起こしました。結局、球団に入るまではわかりませんでしたが、一般的にプロ野球の世界はとても狭いものだと思っている方が多いかもしれないし、繋がりやコネが必要だと私自身も思っていましたが、一概にそうとは言えず、探せばどうにかなるものです。自分で可能性を探り、アクションを起こすということ、そしてそれを人に頼るというより自分で行動してチャレンジしてみたことが、今の仕事に繋がったと思います。

金子真輝



―――通訳のお仕事についてお聞かせください。通訳の方は何人もいらっしゃると思いますが、担当の選手が決まっていて通訳をするのですか?

金子 ホークスの場合は、担当の選手がいるわけではなく、大枠でピッチャー担当とバッター担当が分けられ、さらに、1軍と2・3軍、リハビリと選手が行くところに応じて動く通訳に分けられます。ヒーローインタビューなどに誰が行くという決まりはありません。行ける人が行くという感じですね。グラウンドの外では全く決まりはなく、その外国人選手がどの通訳に連絡するかによって動きが変わって来ます。去年、私は1軍のピッチャーを担当させてもらいました。

金子真輝



―――どのように仕事をしているか、1日のサイクルを教えてください。

金子 キャンプの時は、朝9時頃ホテルを出ます。実践練習になると8時半くらいですね。ホテルの中に食堂があって選手と一緒に朝食をとった後、場合によっては選手がストレッチをしたいということがあるのでトレーナーさんに連絡をしてストレッチをしてもらいます。それから選手と一緒にバスに乗って練習場に着いたら、ずっと選手の隣にいます。ブルペンに入る時はブルペンの後ろで監督との話を繋いだりもします。お昼ご飯も一緒に食べますし、キャンプ中は時間があるので、買い物やゲームの相手をすることもあります。遠征に行くと、寝る時以外一緒ということもよくありますね。



―――シーズンに入るとサイクルは変わってくるのでしょうか?

金子 シーズンだとデイゲームとナイターで時間が変わります。ナイターですと練習開始が14時過ぎになります。私は12時半頃に球場に着くようにしています。コーチの方達はその日のラインナップを考えるためにも、選手が来る前のミーティングの時に選手の状態を把握していなければならない。そのタイミングで自分がいることで、例えば、「モイネロどう?昨日投げたけどなんか言ってた?」などと聞かれ、選手の様子をコーチに伝えたりもします。
 練習と試合中は外国人選手と一緒に動きます。試合前に必ずストレッチやマッサージをしてもらうので、それに帯同し、「ここが張っているね」など話します。ブルペンに入ったら、「このバッターが1塁に出たら行くよ」とか、「このバッター抑えられたら次の回、頭から行くよ」など状況に応じた登板のタイミングを伝えます。あとは、登板する前にキャッチャーのサインの確認をします。登板して帰って来たらトレーナーさんにチェックをしてもらってという感じです。
シーズン中は選手の状態確認が倍くらいに増えますね。キャンプとは違って日に日に疲労が溜まってくるので、その辺の大変さはシーズン中の方があります。多少痛くても、試合に出てプレーしたいという選手が多い。「今日はやめておこう」など選手を納得させるのも通訳の仕事の1つかなと思います。

金子真輝



―――通訳の仕事をしていて感じる、やりがいについて教えてください。

金子 チームや個人のレベルの高い取り組みや練習、プレーを見れることが一番のやりがいかなと思います。それを知りたくて通訳になったというところがありますし、昨年は日本一の球団にもなりました。
 外国人選手に異国でもストレス感じずにプレーをできていると言ってもらえるとすごく嬉しいです。彼らのサポートをしていくうちに、どんどんと日本を好きになってくれて、日本での生活に不自由しなくなる、ふとした時に電話をかけてくれるなど、人間関係を築けていることもやっていてよかったなぁと思う瞬間です。
 あとは、コーチに「モイネロはどうだ?」と聞かれて、「2連投をしているので肩の後ろが張っている」などという選手の様子を伝えると、選手がいないところでも私の話を選手の話として聞いてくれる。それはやはり信頼関係を築けているからこそだと思います。1年目はそんなことありませんでした。自分は第3者ですが、絶対にそこにいなければならない。その第3者をみんなが信頼してくれているということもやりがいにつながっています。



―――勝手なイメージですが、外国人選手は日本人と比べて個性的かなと。関わり方が難しい選手もいるのではないでしょうか?

金子 もちろんいます。ただ、その選手の傾向がだんだんとわかってくる。例えば、今日5打席あって1回もヒットを打たなかったという場面で、ストレスを溜めて周りに言葉が強くなったりする選手や、落ち込む選手など様々です。そのタイミングでは話しかけないようにしたりします。通訳だからと言って常に一緒にいると選手のストレスになりますし、通訳のストレスにもなります。一定の距離ではなく、近づくのか離れるのかというタイミングを見計らうことをしています。それは、2年目3年目で少しずつできるようになって来ました。
 外国人選手って、調子のいい時にはヨイショしてもらえますが、調子の悪い時は練習が足りないとか体重が管理できてないなど、辛辣なコメントを言われたりする。もちろん彼らにその言葉は理解できません。でも、人からの目線や色々なところで読み取ってくるんです。そういう時には、あまり一人にならないよう、家で塞ぎ込まないようにご飯に行くなど、ケアをしてあげられたらなと思っています。



―――そうなんですね。選手とグラウンド以外で関わることに制約はないんですか?

金子 球団として、これをしないでくれと言われていることはありません。通訳としてのどう選手と関わるのかは自分で決めます。選手とご飯を食べに行くこともありますが、私は今一人暮らしをしているので、外国人選手も誘いやすいということはあるかもしれません。ただやはり選手なので、疲労を取りたいタイミングと、リフレッシュしたいタイミングがあったりするので、私から誘うことはあまりないです。



―――プライベートと仕事や、選手と通訳という線引きが難しそうですね。

金子 とても難しいですね。選手との関わりの線引きをしている球団もあると聞きます。私としては、線引きがないメリットを活かして選手との信頼関係を築き、どんな時間や状況でも関係なく関係性作ることが理想ですね。例えば、子供が熱を出したから付き添ってくれと連絡が来て、「奥さんと子供が家でサッカーをしていたら奥さんの爪が剥がれちゃった!」なんてこともあります。そういう時のために自分がいるということを伝えていきたいですね。

金子真輝



―――金子さんが通訳をする上で心がけていることはありますか?

金子 嘘など、信頼関係を崩すようなことはしません。外国人選手が日本で得られる情報は絶対的に少ないです。新聞も写真だけ見れば自分が写っているというのはわかりますが、内容まではわかりません。だからと言って、内容を聞かれた時に適当に話すこともしません。結局はどこかしらでバレてしまって、信頼関係を崩すことになります。正直であることを大切にしています。
ただ、外国人選手と行動を共にすることを重要視しながらも、日本人選手、スタッフとのコミュニケーションを取ることも大切だと思っています。確かに、通訳は外国人選手のために雇用されているわけですが、チームに所属する日本人選手、スタッフとの架け橋になることが重要であり、外国人選手だけに関わりが偏ってもうまくいかないと思っているので、その辺のバランスを心がけています。



―――通訳というお仕事をされている中での、最高の経験や感動した瞬間を教えてください。

金子 やはり日本シリーズですね。日本シリーズはパリーグやセリーグの試合以上に、多くの人が注目しています。昨年は日本一に輝きました。グラシアルがとても活躍をしてMVPに選ばれ、その記者会見で通訳をさせていただいたことも大きな経験です。勝つという目標に向けたプロセスを見て来たものとしては、大切な場面で結果を出せる選手をとても尊敬しますし、そう言った喜びを分かち合い、支えてくれてありがとうと言ってもらえる瞬間が一番嬉しいですね。
 2018年から私はホークスで通訳のお仕事をさせてもらっています。1年目はスアレスのいたリハビリを担当していました。スアレスは2017年に右肘の手術を受けて、ずっとリハビリをしていました。日本に来てからもずっとリハビリをしていて、8月の後半くらいに1軍に復帰したんです。リハビリ中は投げられなくてすごい葛藤を抱えているところも見て来ていますし、よくなって来ていると思ったら次の日は肘が張ってしまっていたりだとか、そう言ったプロセスを越えて登板して戻ってきた場面に立ち会えるのも本当に嬉しい瞬間でしたね。

金子真輝



―――これからのスポーツ界に期待することはありますか?

金子 日本ならNPB、アメリカならMLBといったトップの組織が中南米やアフリカといった地域で人材育成に積極的に取り組んでいけたらいいのになと思います。社会貢献的な意味合いが強くなってしまうかもしれませんが、そういった取り組みができるのは大きな組織です。
 メジャーリーグには中南米の選手もたくさんいますが、ドミニカやキューバなど野球が盛んな国からの選手が多いです。私はコスタリカという、野球が栄えていない国にいました。でもやはりそういった国にも一所懸命野球を頑張って、どうにかして独自のルートを探し、アメリカの大学で奨学金をもらって留学する選手もいたりする。中南米の人たちにとって、アメリカに行くこと自体にものすごく大きなハードルがあります。その大きなハードルを飛び越えられる選手というのは本当に稀です。
ひとつ大きな拠点を決めてしまうと、その周りでしか恩恵が受けられなくなります。ですので、もう少しフットワークの軽い組織を作り、年に一度トライアウトを開催する、野球のイベントをしたりなど、色々な国で様々な取り組みをします。そうすると選手のモチベーションにもつながりますし、もっと多くの人にチャンスを与えることができると思っています。

金子真輝



金子真輝(かねこ ひかる)・・・1992年生まれ(27歳)。
6歳から18歳(高校まで)野球を続け、大学では東海大学に進学し、スポーツメンタルトレーニングを高妻容一教授のもとで学ぶ。
その後、JICA青年海外協力隊・野球隊員としてコスタリカへ派遣され、同国の「野球競技人口の増加」をテーマに普及活動を行う。(2015年9月〜2017年12月)
翌年2018年より、福岡ソフトバンクホークスに入団し、現在に至る。