小林玄樹さんインタビュー

スポーツ分野のメンタルトレーニングは、世界的には一般的なものにも関わらず、日本ではまだまだ認知度が低い。アスリートのメンタルトレーニングに携わり結果を残してきた、日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング指導士である小林玄樹さんが、メンタルトレーニングの重要性について語ってくれた

小林玄樹
小林玄樹



―――そもそもアスリートへのメンタルトレーニングとはどんなことを行うんですか?

小林 サポートの形式は本当に様々あって、基本的にはニーズに合わせてプログラムを組んでいきます。例えば、ボクシングを例に出すと、週に1回練習に帯同し、心理的サポートを行います。あくまでも練習の帯同ですので、1対1で話すというよりは練習の合間に話をしていきます。選手によって話す内容は違って、「集中できずに気持ちが切れてしまう選手」「失敗を引きずってしまう選手」「モチベーションが上がらない選手」など選手によって心理的な課題が違うんですが、それを選手と話しながらどうやってアプローチしていくか考えていきます。例えば、モチベーションが上がらない選手は、毎日同じルーティーンワーク、ジムワークをこなしていると、メリハリが上手くつけられなくなるんです。それではどうやってモチベーションを高めていくかを選手と話し合いながらマッチする方法を選んでいきます。また集中力を高めるためには、一番分かりやすい例でいうと2015年のラグビーW杯で五郎丸(歩)選手が、キックする時にする手と手を握り立てた人指どうしを合わせる「五郎丸ポーズ」が有名になりましたよね? あれはパフォーマンスルーティーンと呼ばれているもので、一応、心理学的にも認められている集中力の高め方です。勘違いしないでほしいのですが、あのポーズがということではなくて、集中力を高める上で、一連の動作・行動をトレーニングすることでいつも通りの集中力が発揮できるということです。イチロー選手も打席に入ると必ず同じルーティーンを繰り返すかと思います。あれもパフォーマンスルーティーンです。



―――なるほど。スポーツでは失敗がつきものです。それを恐れて消極的になったり、無駄な緊張につながる選手も多く見られます。そのような選手達にはどのようなアドバイスをしますか?

小林 これも結構、様々な方法があります。「結果」というのは、未来の出来事でコントロールできないものというメンタルトレーニングのベーシックな考えです。先ほどお話したパフォーマンスルーティーンも、余計なことは排除して今やるべきことを明確にするという目的があります。もちろん結局は、自分自身で「パフォーマンス」を行い、結果に繋がるのですが、「パフォーマンス」の部分を重要視せず、結果に意識がいってしまうことがあると思うんですね。それでは未来に意識がいってしまっていることになります。実は「今のパフォーマンス」に意識を集中することが重要な観点になります。



―――確かにそうですね。もちろん結果も大事ですが、その結果を出すためには「今」、目の前のパフォーマンスに集中することが重要ということですね。 世界的に見てメンタルトレーニングっていつぐらいから行われたんですか?

小林 研究的には色々な段階で行われてきたのですが、海外で普及したのは1976年のモントリオールオリンピックの時にヨーロッパやソ連などが、1984年のロサンゼルスオリンピックではアメリカやカナダが本格的に導入しました。フィジカルやスキルだけではなく、オリンピックで金メダルを取るために選手の心理的な分析などメンタルも含め研究を行いました。この時期に急速に発展したといえるもしれません。そこで分かってきたのはトップアスリートは、明確な目標設定を行うことで、モチベーションを高く保つことができるなど心理的スキルを活用しているという共通点があることを発見したんです。

小林玄樹



―――約40年以上も前にメンタルトレーニングの研究が行われていたのに、日本ではあまりメンタルトレーニングの話は聞かないような気がしますが。

小林 日本のスポーツ界では「実践的」にアスリートのメンタルサポートをしている方は少ないかと思います。「実践的」と言ったのは、大学の先生が現場に出ずに研究をメインでしている方はいます。私の場合は、研究はもちろんするのですが、現場としては自衛隊体育学校で8種目(ウェイトリフティング、近代5種、レストリング他)のアスリートのメンタルトレーニングを行っております。現場では研究では学ぶことができないことが多く存在しています。
 現場でメンタルトレーニングを行う上でまずアスリートファーストでなければならないと思っています。選手が抱えている悩みにアプローチしたい時も、実は選手は話を聞いてほしいだけのこともあります。その辺は臨機応変に対応していくことが大切です。それと一応、1年や2年計画などを作り、それに合わせて心理的サポートを進めていきます。即効性があるトレーニングではないので時間をかけながら理解してもらえたらいいと思っています。

小林玄樹



―――小林さんの中で印象に残っている心理的サポートはありますか?

小林 元日本ミドル級王者のボクシング選手で、西田光選手です。出会ったのは2012年でタイトルを獲ったのが確か2016年だと思います。僕が出会った時は6勝6敗で、言葉は悪いですが成績が振るわない選手でした。西田選手が僕に最初に求めてきたのは、「試合で実力を発揮できない」ということでした。要するに練習でやってきたことが試合で出せないってことです。いろいろコミュニケーション取りながら徐々に彼は変わっていくんですが、それでは彼にどんなアプローチをしたかというと、僕らが使う方法としては、「ピークパフォーマンス」を引き出すことなんです。選手の「ベストパフォーマンス」と「ワーストパフォーマンス」を比較すると、自然と良い時って良い時の傾向が見えてくる。逆に良くない時は良くない傾向が集まっているんです。それならば良い時の状態をどう作るかがゴールポイントになってくるんです。
例えば、試合前からビデオを回して、試合前の表情とか言動を全部録画するんです。試合の入場直前にはこういう表情をしていたとか。それを後日、フィードバックし、ディスカッションを行います。
 僕がサポートし始めてから、1戦目は勝ち、2戦目は判定負けをしたんです。これを勝てば8回戦に上がれるという試合で緊張感もあったと思うんです。後で分かったことなんですが完全に中途半端なボクシングで…彼の中で自分のボクシングを作り上げられないまま闘っていたと話してくれたんです。もっと具体的に話すと、インファイトするボクサーなのに中途半端な距離で闘ってしまった。これをきっかけに西田選手は「自分のボクシングを自分が一番理解しなければいけない」ということに気づき、そこの意識付けをしっかり行い、いい緊張感をもって、集中することでいいパフォーマンスが出せるということを知りました。

小林玄樹



―――アスリートの結果が出ると非常に嬉しいですね。

小林 メンタルトレーニングを指導していて、勝ち負けはどうしても50%の確率であるんですが、負けた時もアスリートだけじゃなく、指導者の方に「いい試合だったよ」って言われることが一番の褒め言葉だと思っています。要はプロセスにフォーカスされているわけですから。プロセスを大切にすれば必ず次の結果にはつながってきます。私自身は選手に感謝の言葉なんてかけてもらわなくてよくて、常に黒子でありたいと思っています。



―――そもそも小林さんがメンタルトレーニングコーチを目指したきっかけは?

小林 高校の時に野球をやっていて、元々はキャッチャーだったのですがファーストにコンバートしました。とにかくあがり症で…(笑)。試合の時は重度の緊張で吐きそうになるんです。たまたまなのですが、僕が高校2年生の時に、メンタルトレーニングで有名な東海大学の高妻(容一)先生の講習を受ける機会があって、その時に「これは面白い」って思ったんです。こういう縁があって、東海大学、大学院に進み、高妻先生の下で勉強させ頂き、今こうして様々なアスリートのメンタルトレーニングに携わることができています。



―――メンタルトレーニングの専門家としての今後のビジョンはありますか?

小林 僕自身はもっとたくさんのアスリートの人のお手伝いをしていきたいと思っています。それとメンタルトレーニングコーチはメジャーリーグなんかでは専属のメンタルトレーニングコーチがいるのが当たり前ですし、アメリカのUSOPC(アメリカ・オリンピック・パラリンピックセンター)には常駐のメンタル専門家が9名はいます。日本ではまだまだそのような状況になっていません。スポーツメンタルの分野をもっとたくさんの人に理解して頂き、アスリートが最高のパフォーマンスが出せる状態をサポートできたらと思っています。

小林玄樹



小林玄樹(こばやし・げんじゅ)…1989年5月1日生まれ。神奈川県出身。東海大学大学院体育学研究科 修士課程修了