柳田一磨さんインタビュー

学生の頃から中米やアジア各国との交流を続けてこられた柳田一磨さん。日本だけではなく海外を見た視点と、形に捉われない柔軟な発想を持つ代表の為末大さんとの仕事の経験を基に、スポーツ界の最前線で活躍されていらっしゃいます。SNSを使った新たなスポーツの可能性についても教えてくださいました。



―――大学院では筑波大学と鹿屋体育大学の共同学位プログラムである修士課程スポーツ国際開発学共同専攻に進学されたと思いますが、きっかけはどのようなものでしたか?今のお仕事に繋がるものがあったのでしょうか。

柳田 僕は学部時代、桜美林大学の野球部に所属していたのですが、桜美林大学野球部とJICA(独立行政法人国際協力機構)が提携し、2016年から毎年2月から3月にかけての1ヶ月間、野球部の10名~15名を中米・コスタリカ に派遣して、野球の普及を行うという国際協力活動をはじめました。その第1回目と2回目が、ちょうど僕の大学3年・4年時と重なり、現地に派遣していただきました。その経験が今に繋がっていると思います。
 現地では小学校の体育や、地元野球チームの指導に入らせてもらいましたが、そこで日本との大きな違いに衝撃を受けました。体育のカリキュラムはコスタリカにもありましたが、グラウンドがない学校やボールを買えるお金がない学校など厳しい現実があり、ただ政策的に野球を体育の授業でやると決まっていても、いざ現場に行ってみると、なかなか難しいなと感じました。そういった限られた環境のなかで、体育の授業や野球を含む多くのスポーツに対して援助が行われていますが、ただ寄付や指導者の派遣によって支えるのではなく、どうしたら根本の問題を解決できるのかをもっと考えることが必要だと感じました。もちろん、現場での経験や指導のスキルも大事ですが、もっと専門的に学びたいなと考え、大学院でスポーツ国際開発学を専攻しました。そして、海外に目を向けて仕事を続けていきたいなと考えていた時に一般社団法人アスリートソサエティに出会いました。

柳田一磨



―――事業内容や業務形態を教えてください。

柳田 在学中、ちょうど一般社団法人アスリートソサエティ(以下:アスリートソサエティ)がアジアの陸上競技選手を支援していて、とても面白そうだったので学生をやりながらインターンとして入らせてもらいました。
 その後、そのままアスリートソサエティの仕事をしつつ、同じく為末大が代表を務める株式会社Deportare Partners(デポルターレ・パートナーズ、以下:Deportare Partners)に新卒で入社し、両法人で働いています。Deportare Partnersは、主にスポーツに関わるスタートアップ企業の支援や、陸上競技トラックと競技用義足の開発ラボが併設された、「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」を運営している会社になります。
 業務形態としては、Deportare Partnersが正社員で、アスリートソサエティは事務局というかたちで携わっています。法人は違えどもメンバーはほとんど同じなので、別々のところで働いているという意識は特にありません。
 勤務形態が変わっていて、週に1、2回は固定で会議がありますが、それ以外の時間は縛りがなく、出社も義務付けられていないので、在宅勤務と混ぜて比較的自由に働かせてもらっています。

柳田一磨



―――現在は、具体的にどのようなことに力を入れていますか。

柳田 アスリートソサエティの方ですと、年に1・2回、例えばブータンとかネパールなどの代表レベルの短距離選手を日本に呼び、複数国の選手が一同に集まる合同合宿や、各国単独の合宿もやるんですね。それにかかわるコーチだとかは代表の為末を含めアスリートソサエティの関係者から手配しています。合同合宿では、各国の代表選手が集まってトレーニングをすることで、陸上を通したコミュニティづくりだとかネットワーク構築もねらいのひとつとしてやっています。ただ、この新型コロナウイルスの影響で今年はまだ一回も実施できていませんが。
 参加国の中でも、為末がブータンオリンピック委員会のスポーツ親善大使を務める関係で、特にブータンとはかなり深い関係を築いています。ブータンの陸上短距離チーム単独の合宿として日本に来てもらうだけでなく、こちらからブータンへ出向いて陸上大会の開催をサポートしたり。あとは埼玉県の寄居町が東京2020大会に向けて、ブータンの陸上短距離チームのホストタウンとして登録されているので、寄居町での合宿や交流イベント等の調整業務もアスリートソサエティでやっています。昨年の夏、ブータンの選手が寄居町に来て合宿をした際は、一緒にホテルに泊まって移動したりだとか、通訳とかで携わっていたのですが、短期間ですごく仲良くなりました。



―――各国の選手を招かれて合同合宿をされる時に、どんなことに気をつけていますか?

柳田 それぞれ文化って違うじゃないですか、食事とか含めて。その辺で自分の感覚とは異なる点があるので、全員が満足できるようなものを提供することは難しいですが、まずは楽しいと思って合宿に参加してもらえることが一番だと思うので、誰かだけが嫌な想いをするということなく、皆んなが楽しめるようにというのは気をつけていますね。



―――仕事をやって最高の経験や興奮した瞬間のエピソードを教えてください。

柳田 昨年2月ですね。まだ学生の頃、アスリートソサエティのインターンとして関わっていた時ですが、アジア5ヵ国の代表レベルの短距離選手を1人ずつ東京に招いて合同合宿をしました。各国の選手が1カ所に集まり、陸上という共通言語を通して交流している様子を見た時は、興奮したというか非日常で新鮮でした。スポーツってやっぱり言語とか文化を超えてコミュニケーションがとれるんだなと。それで、そのうちの1人が義足の選手だったのですが、僕はその時生まれて初めて義足のアスリートを目の前で見ました。思い切り駆け抜けていて、しかも速くてかっこ良いんですよ。障がいの有無もそうですけど、人って本当に皆それぞれが生きていく上で不便に感じる点があって、そういうのは結局、その人の問題というより、その不便な事象自体に問題があると思っています。僕が出会ったその義足の選手が競技用義足を履きこなして全力で走っているのを見た時、こういった技術の発展によって、ある意味「障がい」というものは無くなっていくというか社会は変わっていくと思いました。何より人間の可能性を感じました。



―――Deportare Partnersでは、昨年度まで代表の為末大さんの秘書業務も一部担当されていたと思いますが、やりがいはどういったところがありますか。

柳田 入社して半年くらい、スケジュール調整の業務などをしていました。講演や取材、テレビ出演のスケジュール調整もそうですが、今まで狭い世界しか知らなかった人間にとってメディアの世界は新鮮でしたね、どのようにキャスティングがされていくのかとか。特にアスリートの視点や経験が社会に発信されるにあたり、一体どのような影響があることを狙ってキャスティングされているのかというのは、今まで考えたこともありませんでした。例えば、講演依頼で市民や社員向けに、将来設計や困難を克服する方法を考えるきっかけになるように、元アスリートの視点で話してください、といった依頼を頂くんですけど、たしかにアスリートとしての競技経験って、そういうスポーツ以外にも通じるものがあるなと。パフォーマンスを高めるために試合から逆算してトレーニングを計画したり、どのように自分の持ち味を発揮していくかって、アスリートは特に様々な要因が複雑に絡んだ状況下で経験を積んできているので、そういった経験を世間一般の将来設計や困難を克服する方法等に落とし込んで話すというのは、元アスリートだからこそできることだと思っています。もちろん、元アスリートなら皆できるということではありませんが。また社会では、スポーツに対してこういう印象を持っているんだなとか、別の視点を知ることができたのは自分にとって貴重な経験だったと思っています。



―――柳田さんから見て代表の為末大さんはどんな方ですか?

柳田 スポーツ選手は引退してそのまま指導者やチームスタッフになる道を選ぶことが多いと思いますが、彼の場合はメディアへの出演以外にも一般社団法人や株式会社を設立し、スポーツを通しての社会貢献や、スタートアップ企業を支援したりと、スポーツの現場からどうするというより、外側から、あくまでも社会の中にスポーツがあるという位置づけで物事を捉える視点が広いと感じています。
一緒に仕事をしているとすごく温厚な性格で、交友関係の幅もスポーツに限らずものすごく広いなと、最初は色々と衝撃を受けました。彼は読書家で、オフィスにもたくさんの本が並んでいます。スポーツに関する本はごく一部というかむしろあまり無く、本当に興味の幅が広い印象です。日頃からSNSでうまく言語化して発信しているのもそうですし、仕事をする上での視点の広さも、ひとつは読書に起因していると思います



―――柳田さん自身が大事にしている事や、気を遣っている部分がありますか?

柳田 大学院までスポーツ関係のことを専攻し、なおかつスポーツに携わる仕事はしていますが、なるべくそれに凝り固まらないように心掛けています。スポーツの中から外をみるより、外からスポーツや今の自分がどこに置かれているかといった状況や、当たり前ですけど、まずは社会全体が今どうなっているのかっていうのを極力考えるようにはしていますね。



―――新しくはじめた取り組みはありますか?

柳田 Deportare Partnersでやっている仕事で、「為末大学」というYouTubeチャンネルを運営しています。動画の撮影だとか、チャンネル運営を担当し、ほぼ毎日1本ペースで配信をしています。
これは、新型コロナウイルスの影響が顕著になりだした4ヶ月前(2020年3月初旬)に始めました。外で運動ができないという状況でも家でできる運動だとか、あとは陸上競技のトレーニング、走り方を細かく解説した動画を中心に配信しています。 動画の内容ですが、主にYouTubeやTwitterに届いた質問に対して、解説を交えて返事をするというスタイルでやっています。いつもたくさんの質問を頂き、現在では動画本数が120本以上になりました。
新型コロナウイルスの影響による自粛期間中に、自宅学習を実施中の中学校から連絡があり、「動画を生徒たちに自宅で見てもらい、各自が家の近くで運動するための教材として使っていいですか?」という相談を頂いたこともありました。

柳田一磨



―――今後、どのような企画や方向を考えていますか。

柳田 最近、コラボ動画を始めました。少しずつ色んな方々に来てもらう企画をやっています。例えば、先日は足のケガについて質問がきていましたが、ケガについて我々は医者や専門家でもはないので「スポーツトレーナーの経験が豊富な人を招いて解説してもらった方がいい」という話になりまして、実際にトレーナーの方に来ていただいて、ケガに関する質問への回答・解説の動画を配信しました。あと最近では、支援先のスタートアップ企業とコラボした動画も撮っています。今後はスポーツと関わりがあるけど、分野としては少し異なる専門家をお招きするなど、少しずつ幅を広げていきたいです。



―――苦労などはありますか。

柳田 最初はスマホを使って手取りでアップロードを繰り返していましたが、色々な方に視聴いただいて、音声をもうちょっとこういう風にしてくださいだとか、もうちょっとわかりやすいように撮ってくださいだとか、たくさんYouTubeにコメントを頂きました。動画の撮影や編集だとかは、素人なのでそのような意見をもらいながら少しづつ改善してきました。苦労したというか逆に色々教えてもらえて良かったと思います。



―――今後、YouTubeチャンネルにどのようなことが期待されますか?

柳田 学校の部活動の顧問の先生で、競技の専門じゃなくても指導をされている方がいらっしゃると思いますが、そのような方にも気軽に動画を視聴していただきたいと思っています。指導において色々と難しい場面が出てくると思うので、そういう時に「じゃあそれについてはこの動画を見ながら一緒にやってみよう!」とか。あとは生徒だけの時、もはや1人の時でさえも動画には簡単にアクセスでき、学ぶことができるので、今の時代に合った形で動画での学習が広がっていけばいいなと思っています。



―――今後、スポーツ界に期待したいことを教えてください。

柳田 メディアでもスポーツはよく「勝負の世界」として試合結果を中心に取り上げられることが多いので、スポーツを普段やっていない方からすると「競技スポーツ」のイメージが強く、スポーツをすること自体に壁が少しあるように思います。何かスポーツを始めるにしても、ちょっと難しそうな印象があるかなと。一方で「生涯スポーツ」というか、ヨガや水泳、ジョギングなどのエクササイズは競争相手が横にいなくても比較的始めやすく、身近に感じられることもあるので、まずはもっと多くの人が「体を動かすことって楽しそうだな、楽しいな」って捉えられるようになり、「他のスポーツもやってみようかな」とか「スポーツの試合を観てみようかな」と、少しずつスポーツへの関心が広がって欲しいと思います。健康のためにスポーツに取り組むという理由はもちろん素晴らしいですが、ただ純粋にスポーツを「楽しい」と思って気軽にアクセスできるように、もっとスポーツが多くの人の身近なものになっていけたらいいなと思いますね。



―――発展途上国のスポーツ発展に関して、期待することはありますか?

柳田 発展途上国か先進国かに関係なく、スポーツができる環境が整っているということは、不便なく生活していく上でのインフラ整備も関係していたりします。気軽にスポーツができるというのは、つまりは治安が良かったり、場所にアクセスできる環境が整っていたり、あと人によってはバリアフリーだったりとか、環境が整っていないと難しいですよね。「サッカーが盛んだからスタジアムを作ろう」だとか、「普及させるために、もっと指導者を派遣しよう」ではなくて、まずはスポーツが発展することに対して妨げとなっていることは何かを知り、周りの環境にも配慮したスポーツ支援が重要だと思います。私はどちらかと言うと、気軽にその辺でスポーツができる環境を整えるために、まずは普段の生活の質が上がることが最優先だと考えていて、そのための支援が重要なのではないかと思います。生活の質が上がり余裕が生まれれば、少しずつスポーツも盛んになっていくんじゃないかなと考えています。



柳田一磨(やなぎた かずま)・・・1994年生まれ。長崎県出身。
桜美林大学在学時、硬式野球部とJICAが提携する短期派遣プログラムに参加し、中米・コスタリカの野球普及活動に従事。その後、鹿屋体育大学・筑波大学が設置する修士課程スポーツ国際開発学共同専攻を修了。現在、株式会社Deportare Partnersおよび一般社団法人アスリートソサエティにて勤務。