メンタルトレーニング基礎知識 〜どうすれば心は強くできるのか〜

はじめに

メンタルトレーニングという言葉をご存知ですか?
最近は、日本でも少しずつ耳にする機会が増えたのではないかと思います。
しかし、実際のメンタルトレーニングの内容を理解していますか?

まずは、下記の質問について考えてみて下さい。

質問①:集中しろ!と言われたら何をどうしますか?
質問②:やる気出せ!と言われたら何をどうしますか?
質問③:気合を入れろ!と言われたら何をどうしますか?
質問④:リラックスしろ!と言われたら何をどうしますか?

いかがでしょうか?的確に答えることができましたか?

これらの質問は、スポーツ現場でよく耳にする言葉がけです。しかし、ほとんどの選手が言われたことはあるけど、教わったことがないのが実情ではないでしょうか。そのため、言われた選手は実際にはどうして良いかわからず、経験則的に集中しているような行動を取ってみたり、ふりをしていたのではないでしょうか。簡単に言えば、メンタルトレーニングはこのようなスポーツ現場の心理面に関する課題に対して研究を行い、導き出されたものです。


メンタルトレーニングとは、スポーツ心理学の研究によってプログラム化された科学的・系統的・合理的なメンタル面強化のトレーニングです。アスリートが普段の練習で、技術や体力をトレーニングするのと同じように、心理面も「トレーニング」をすることができるということです。心技体の「心」はトレーニングすることで強くなることが科学的に証明されています。歴史的に紐解くと、メンタルトレーニングは宇宙飛行士のトレーニングとして1950年代に旧ソビエト連邦でスタートし、1976年のモントリオール五輪の前後から、西側諸国に広がり、五輪で勝つためのトレーニングとして発展していきました。

現在、米メジャーリーグでは、30球団中26球団は、フルタイムのメンタルの専門家を雇用している(Shellenbarger,2018)と報告されています。日本では、まだまだメンタルトレーニングは諸外国と比較しても広がっておらず、その点においてメンタルトレーニングの後進国と言わざるを得ません。


  メンタルトレーニングの目的は、競技力向上(実力発揮、練習の質の向上、人間的向上)です。もし、あなたが「試合で勝つ可能性を高めたい」「強くなりたい」など思っているのであれば、技術・体力だけでなく、メンタル面強化をすることによって心技体のバランスを取ることでレベルアップが可能です。

1997年の国際メンタルトレーニング学会(ISMTE)では、以下のようにメンタルトレーニングを定義しています。「メンタルトレーニングとは、身体的な部分に関わらない全てのトレーニングであり、ピークパフォーマンスとウエルネスを導くための準備である。スポーツのパフォーマンスや人生の向上をさせるための、ポジティブな態度、考え(プラス思考)、集中力、メンタル、感情などを育成/教育する事が中心である。 ただし、スポーツ、パフォーミングアーツ、ビジネス、健康、教育、楽しい生活など幅広い分野を含んでいる。」つまり、メンタルトレーニングは「心が弱い人」だけが取り組むものではなく、すべての人々がより良いパフォーマンスや人生を送るために効果的である言えます。


  日本では「メンタル」というと心理的に追い込むとか、苦しい思いをして強くなるといったイメージがあるかと思いますが、メンタルトレーニングは専門用語で「心理的スキルトレーニング」と言います。つまり、心理的スキルを練習や日常生活からトレーニングすることによって、メンタル面は強化することができます。心理的スキルには、様々な種類がありますが、目標設定、緊張のコントロール、イメージ、集中力、プラス思考、セルフトーク、コミュニケーション、試合に対する心理的準備などが挙げられます。


 最後に、メンタルトレーニングを実践する場合は学術的背景のあるメンタルトレーニングの専門家に指導やサポートを依頼することをお勧めします。現在、日本では誰でも「メンタルトレーナー」などと名乗ることができますし、巷では「〇〇式メンタルトレーニング」などという言葉を目にしますが、これらの学術的背景があるのかは不明です。上述した通り、メンタルトレーニングには学術的背景があることから、指導するためにはスポーツ科学の知識があり、現場研修や研究を行なわなければなりません。私がメンバーになっている米国の国際応用スポーツ心理学会(AASP)ではCMPC(Certified Mental Performance Consultant)という資格を発行しており、AASPの資格認定の基準を満たし、試験に合格しなければ取得することができません。日本でも、AASPの資格認定基準とは異なるものの日本スポーツ心理学会がスポーツメンタルトレーニング指導士という資格を認定しております。読者の方々には、是非スポーツ科学に基づいた正しい情報を入手して頂きたいと思います。

名前 小林 玄樹
資格

博士(学術)
日本スポーツ心理学会認定:スポーツメンタルトレーニング指導士

所属 株式会社ハイクラス/京都工芸繊維大学大学院
プロフィール 日本スポーツ心理学会認定:スポーツメンタルトレーニング指導士。株式会社ハイクラススポーツ活動支援事業責任者。

高校時代、野球部に所属し、東海大学体育学部・高妻容一教授の講演・指導を受けてメンタルトレーニングを実践した。その時にメンタルトレーニングの効果を体感し、同教授の元で大学・大学院の6年間を通してスポーツ心理学・応用スポーツ心理学(メンタルトレーニング)の研究、実践活動を行った。

現在は、メンタルトレーニングを様々なチームや選手をはじめ、指導者、保護者、ビジネスパーソンに対して指導するメンタルトレーニングのスペシャリスト。テンポの良い講演と親身な相談には定評があり、長期間サポートを続けている選手も多い。

所属学会として、国際応用スポーツ心理学会/日本スポーツ心理学会/日本スポーツメンタルトレーニング指導士会/日本パフォーマンス学会/日本体育学会がある。