熱中症とは、夏の暑熱環境で起こる障害の総称です。実は、暑熱環境以外でも多湿な環境で発症することがあります。では、熱中症を発症してしまった場合には、どのような対処をすればよいのでしょうか?本記事では、熱中症の定義や対処、効果的な水分摂取についてスポーツ健康科学の博士号を持つ中村 智洋氏が詳しく解説します。
目次
熱中症とは「暑熱環境下で起こる障害の総称」
熱中症とは、暑熱環境や体熱産生の増加に、身体が適応できず起きる状態の総称です。熱中症は総称であり、熱性失神、熱痙攣(ねつけいれん)、熱疲労、熱射病など10の診断名があり、それぞれ症状や重症度が異なります。
ここでは、いくつかの病態について、重症度別に簡単に解説していきます。
「熱失神」や「熱痙攣」の重症度は低いですが、症状としては、めまいや失神、さらには筋痙攣(こむら返りのような状態≒脚がつる)が見られます。 めまい・失神・筋痙攣などの症状がみられた時は、運動などを中止し、身体を冷やしたり、スポーツドリンクなどの冷たい物を摂取して休息をとる必要があります。
熱失神や熱痙攣の場合は、安静することで回復するケースがほとんどです。
「熱疲労」の重症度は中等度で、症状としては、頭痛や吐き気、意識朦朧など臓器の症状が現れます。熱疲労の症状は、水分補給や休養で回復することもありますが、体温が40度近くになり、点滴が必要なケースもあり、医療機関の受診が必要な場合があります。
熱射病の重症度は高く、医療機関の受診が必要です。熱射病の症状では、体温調節機能が破綻し、意識障害などが発生します。体温は42度近くになり、最悪のケースでは死に至ってしまうこともあるので迅速かつ適切な対処が必要です。
熱中症は暑熱環境以外でも起こる
“熱中症は暑いから起こる”というイメージを持たれている方が多いのではないでしょうか? 暑い環境で発生しやすいことは間違いなのです。くわえて、多湿環境(湿度が高い)でも起こりやすいのが熱中症の特徴です。
多湿環境で熱中症が起こるメカニズムとしては、湿度が高いことから、身体から汗がなくならず、熱を溜め込みやすい状態になってしまうことがあります。また、風のない日や日射が強い日、急に気温が上がった日なども身体に熱をため込みやすい状態になりやすいので注意が必要です。
熱中症は、暑さなどによって、体温調節機能が破綻して起きる症状です。 極端な暑さにより、体温調節機能は異常をきたしやすいですが、その日の体調など様々な影響によって変わります。 例えば、梅雨明けは、身体が暑さになれておらず、水分を取らないと室内でも熱中症になる“いつの間にか熱中症”になってしまいます。 若者は運動時や作業現場等の職場など、高齢者は自宅の室内など、多方面で注意していく必要があります。 今から熱中症に対する意識を高めておきましょう。
今からできる熱中症における4つの予防対策
熱中症の予防・対策は実はそこまで特別なことをする必要はありません。熱中症は高温多湿の環境で起こりやすく、日本の夏は特に顕著です。そのため、熱中症の対策を前もってすることが、予防や対策につながります。下記では、水分摂取・服装・免疫・身体機能の4つの観点からポイントを解説します。
熱中症の予防対策①水分とミネラルの補給
水分とミネラルの補給をこまめに実施することは、熱中症対策として効果的です。
なぜなら、汗をかくと、身体の水分だけでなく、塩分などのミネラル(正しくは、NaやKなど)を失ってしまうからです。そこで、失った水分やミネラルを補給し、身体を冷やすために、5~15℃に冷えたスポーツドリンクを“こまめに”摂るとよいでしょう。
熱中症の予防対策②温度調節のできる服装を
熱中症の予防対策の2つ目として、温度調整のできる服装にすることは効果的な方法の1つです。
冷房にあたる時間が長いので長袖を着てきたのに、外に出たら暑すぎてつらい、なんて経験はありませんか?そうならないためにも、温度調節を上手にできる服装を心掛けましょう。
また、熱中症を服装の調整で予防するには、着る服の素材も大切です。麻や綿などの通気性が高い生地、吸湿性や速乾性の高い生地などを選ぶことで、体温調節がしやすいです。
熱中症の予防対策③疲れているときは普段よりも意識的に
疲れているときは、疲れていないときよりも熱中症対策を意識的に行いましょう。疲れているときは、身体の免疫機能が低下しています。身体の免疫機能が低下しているときに、暑熱環境下に長時間いると、体温調節がうまくいかず、熱中症を引き起こしやすくなってしまいます。
普段は大丈夫でも、疲れているときは普段よりも意識的に体温を下げるように水分を摂取したり洋服の素材等に気をつけましょう。
熱中症の予防対策④汗を拭きとろう!
夏の時期は、汗を拭きとって身体に熱がこもらないようにすることが予防につながります。
多湿環境では、汗が身体にまとわりつき、身体の熱が逃げずに体温が上がってしまいます。体温の上昇を予防するためには、身体の汗を拭きとり、身体から熱を逃がす手助けをすることが効果的です。
注意するポイントとしては、プールや海水浴といった水中です。水に浸かっていても、汗をかいており身体から水分やミネラルが失われているのです。プールや海水浴などでも、こまめな水分摂取が熱中症の予防には大切です。
熱中症の症状別の対処方法
もし熱中症になってしまったら・・・熱中症は軽い症状から重い症状まで幅広く、正しく理解して対処しないと危険を伴う可能性があります。 ここでは、熱中症になってしまったときの対処についてお伝えしたいと思います。
熱中症の症状が軽い時
熱中症の症状が軽い時(少しふらっときた程度)は、まず涼しくて風の通る場所(木陰やクーラーのある部屋)に移動し、足を高くして横になりましょう。
少しふらっときた程度の症状であれば、上記のような対処でおおよそ回復すると思います。
筋肉が痙攣してしまった時
暑熱環境下での筋痙攣は、一般的に身体の脱水とミネラル喪失により起こるとされており、水分とミネラルを含んだスポーツドリンクの摂取が必要です。 また、5~15℃に冷えた物を飲むと、水分の吸収を高めつつ、身体を冷やすことができるため効果的です。 また、痙攣した筋肉をゆっくりとストレッチングさせることも有効です。 特に、ふくらはぎが痙攣した場合には、アキレス腱からふくらはぎにかけて仰向けに寝て伸ばすことが効果的です。
症状が重い(中~重度)の時
めまいや頭痛、吐き気、意識がない時は、まずは涼しい場所に移動し、意識がない場合はすぐに救急隊に連絡をしましょう。 意識がある場合は、水分が飲めるかどうかを確認します。自力での水分摂取が難しい場合には医療機関の受診が必要です。 一方で、水分を飲んで落ち着く場合、症状の回復を待ち、もし症状が改善しない場合には医療機関の受診が必要です。
また、体がほてって異常に熱い場合は、氷やアイスパック、冷たいタオルなどを、首、腋(わき)の下、足の付け根など、太い血管(動脈)のある場所を冷やして、体温を下げる必要があります。
効果的な水分補給とは
一昔前の日本では、運動中に水分を摂ってはいけない、ということが通説のように言われていました。しかし、水分を摂らずにいると、脱水やミネラル不足に伴い、熱中症を促すことになるのはこれまで読んできたみなさんはお分かりになったかと思います。
最終回の今回は、熱中症の予防に効果的な水分補給の方法についてお伝えします。
私たちの体内の水は純粋な水なのか?
私たち人間の身体を構成する成分のうち、おおよそ60%は水分でできていますが、この水分は、純粋な水なのでしょうか?答えは、“No”で、人間の身体の水は、塩分濃度が0.9%の体液と呼ばれる水分で満たされています。つまり、単に真水を飲めばよいかというとそうではないということです。
効果的な飲み物とは
体液がただの水分ではないことを考慮すると、ただの水よりもミネラル(塩分など)が入っているもののほうが身体には必要であり、その濃度が0.1~0.2%程度だと吸収しやすいといわれています。これがミネラル入りの水分が勧められる理由です。しかし、ミネラル分の濃度が濃すぎる飲み物は、吸収する際に薄めるために身体の水を使ってしまい、薄すぎる飲み物ではミネラル不足の問題が発生してしまいます。
さらに、冷たい飲み物(5~15℃程度)を飲むことで身体への吸収が高まることもわかっています。一方で、冷たすぎる物は胃腸に負担を与え、暖かい物は身体を冷やす効果が低いため、望ましくありません。つまり、まとめると、適度にミネラル分が入っている冷えた飲み物(スポーツドリンクなど)が効果的ということです。
どのような飲み方がいいのか?
暑くてのどが渇くと、一気に飲みたくなりますが、これも最適な水分摂取とはいえません。一気飲みでは、飲んだ水分の大半は吸収されずに尿として出てしまいます。また、のどが渇いた時点では、既に身体に水分が足りていない状態です。そのため、のどが渇く前からこまめに水分を摂ることが必要です。
まとめ
効果的な水分摂取のポイントとして
1.濃すぎない(0.1~0.2%程度)のミネラルが入っている
2.よく冷えている(5~15℃)
3.こまめに分けて摂取
の3つがあります。
今月の4回の記事を通して、熱中症に関する基礎知識の習得をしてもらいました。まずは自分の熱中症を予防するとともに、家族や友人の熱中症にも注意をしていきましょう。暑い夏が少しでも健康で快適な時間を過ごせることを祈っております。