インタビュー

スポーツの暗黙知を可視化しより速く高いパフォーマンスの世界に挑む~里大輔さん~

どの競技に対しても求められるのが「スピード」。選手の動作のなかには経験値や勘に基づくものも多く、まだ言葉や文章で可視化されていない暗黙知の部分があるといいます。感覚的な動作を言語化し、より速い、より強いパフォーマンスを実現するために、一瞬の世界の動作「コマ」を見つめ、選手と向き合っている里大輔さんに迫ります。

今の職種に至った経緯やきっかけ

―――これまで、さまざまな肩書をもって活動されていたと思いますが、今の職種に至った経緯を教えてください。

 僕は陸上選手を引退後、24歳で大学・実業団陸上競技部の監督になりました。最初は陸上部の監督をやりながら、陸上部のチームがオフのときに他競技のSC(ストレングス&コンディショニング)やランニングコーチというのをやったりしていました。当時、陸上に関わらず、どの競技においても「スピード」が重要視されていて、『では、どう速くするのか』その具体的な指導方法について考えるようになりました。

僕には瞬発的な人の動作がパラパラ漫画の一コマのように、動画ではなく写真のように見えています。「暗黙知」といわれる言葉がありますが、経験的に使っている知識も、言葉で説明しろと言われると難しい技術は数多くあります。「そこをもっと速く」とか、「そこをもっと強く」というのは選手自身もわかっていますが、うまくかたちにできていない。

逆にいうとそれは「勝て」と、祈って勝たせるのと同じです。では、どうやって「速く」・「強く」できるのかというと、一連の動作を連続写真のようにコマに切り分けて、無駄なコマを省き、スピードやスキルを発揮するために必要なコマを挿していくことです。そういった動作のコツと勘を言語化して明確に選手に落とし込むということが僕の仕事になります。

現在、僕は「パフォーマンスアーキテクト」という肩書で呼ばれていますが、最初は「スピードコーチ」という職名ではじめました。早稲田大学のコーチを引き受けた時に、「あなたは走るだけではなく、さまざまな動作のスキルも見られるから“スピード&ムーブメントコーチ”と呼ぶのはどう?」と教えていただいたことがきっかけになっています。

最近は、「ムーブメントトレーニング」や、「ファンクショナルトレーニング」というものもありますが、それとも違います。僕の場合は、例えばキッカーやゴールキーパーの動作やスキルを見ることができます。その後、「この仕事はパフォーマンスの“設計士”だよね」と言われるようになり、「パフォーマンスアーキテクト」という職名で今に至っています。

競技によってはまだ設計図になっていない動作は結構あります。「もっとこうしたら、もっとこうなるはずなのに」ということが共有されていない部分は多々あります。新しい技術を作ることもあれば、今まであっても説明されていなかったことを新たに説明し、技術にする作業が一つ。そして、なんとなくやっていた動作をきちんと言語化し、動作を組み立てる順番の説明書をつけるという作業がもう一つ。現在は大きく二つの仕事をしている状況です。

―――「パフォーマンスアーキテクト」に繋がったきっかけはどこにありますか。

 今に繋がったきっかけは、ラグビーだと思います。ラグビーのランニングコーチをして、よくある「効率的な走り方を教えてください」というところからスタートしました。ある日グラウンドで、選手が寝て起きる練習をしているのを見て、「これは何の練習ですか?」と聞いたら、「寝て起きる練習」だと言います。しかし、その時にコーチが選手に掛けていた言葉は、「早く起きろ」だけでした。

僕は疑問に思ってコーチへ「じゃあ、はやく起きるために、どうすればいいのですか?どういうスキルの段階にわけていますか」と聞いたら、それは特にないとのこと。速く起きるには3パターンありますが、ラグビーの起き上がり方には2つのパターンがあります。

それを「寝て起きる動作を段階的にやっていくと、こうなると思います」と実際に説明したら、その後、監督はそれを採用して練習に取り入れてくれました。それがきっかけで僕はSCコーチを兼務する「スピードコーチ」をはじめました。

スピードコーチとは、ストレングス&コンディショニングを見ながらスピード動作に特化したコーチングをする仕事で、走るスピードだけでなく、動作のスピードを高め、チームの攻撃、守備全体の速度の向上にも関わっています。

これまで、日本ラグビーは強く速く前に上がるというようなディフェンスを目指していましたが、僕が関わったさまざまな年代の代表チームにその方法論はありませんでした。そこに対してアプローチしていくことで新たに「スキルコーチ」の肩書が増え、そうしていくうちに様々なポジションを横断的に統括するハイパフォーマンスマネージャーのようなポジションでも仕事をするようになったということです。

スピードコーチ、SC、スキルコーチ、ハイパフォーマンスマネージャーと、さまざまな肩書をもつようになり、最終的には「パフォーマンスアーキテクト」になったという流れです。自分の中では新しいことやっている認識はありません。単純に、選手やコーチ陣が困っている「なぜ?」を聞いて、それを具体化し、段階的に設計図を作り上げて解決していくこと。それがとても楽しく、やりがいに思っています。

オンリーワンである存在「パフォーマンスアーキテクト」という仕事

―――お仕事のやりがいをぜひお話しいただけたらと思います。

 やりがいとしては、かなり困難だと言われるようなクライアントに対しても、“見逃さない技術”をもっていることや、“技”を磨く機会があることです。僕は「選手が進化しないわけがない」と考えています。選手の動きを動作(コマ)で捉えているので、確実にうまくいっているところと、そうではないところをしっかりキャッチしています。

一つの動作が変わって、その動作の連続性の中で表現される走りやステップなど、さまざまなフットワーク、スピード、パフォーマンスをデザインしています。失敗したらどうしようではなく、100%成長、成功させること。それが僕の覚悟だと思っているので、確実に成果を出したいと思っています。

そういう意味ではチャレンジし続けるモチベーションをもっています。僕の担当した選手が100%言ってくれることは、「あっ、これか!」という言葉。自分が今まで感覚で思っていたこと、言葉では言い表せない暗黙知の部分ですが、それを実際に再現できて、選手の「感覚」に結びついたとき。

選手にとっては、「生まれ変わるような感覚がある」と言ってもらえます。さらに、「僕らスポーツ選手は子どもに夢を与える仕事。でも、里さんは僕らプロ選手に夢を与えてくれますよね」という言葉をもらえました。

また、自分はやり尽くして、引退を目前にしているという選手も僕を頼ってくれていますが、「いろいろな細かいことを突き詰めようと思ってきたけど、若い時のように成長を感じられて嬉しい」と言ってもらえました。そういう選手たちと一緒になって、違う世界を見に行けること。何よりのやりがいに感じています。

―――里さんしかやられてないお仕事ということで、気になる方も多いと思います。現場では具体的にどのようなことをされているのか、ぜひ教えていただけますでしょうか?

 基本、チームとの契約で現場に行きます。現場でどのようなことにアプローチしているかについては大きく二つあって、一つの分野を職人として担当することと、全体の設計図を作る仕事になります。

フィジカルコーチ、メディカルスタッフ等の間に入り、それぞれの達成したいパフォーマンスを統括しながら、実際のプレーのパフォーマンスに移行していく段階を具体的に作ること。サッカー界、ラグビー界、今年でいうとバレーボールVリーグのチームでこのようなことを行っています。

細かなことでいうと、監督の成し遂げたいパフォーマンスを段階的にデザインします。ピリオダイゼーションのように全体の計画に加えて、スキルの段階や細かなスピードの種類、それに伴ってストレングスやコンディショニングはなにをしていくか。各フェーズで技術や、全体の戦略戦術を細かくクロスオーバーさせていくことをしています。ただ練習メニューを書いて渡すというかたちではありません。

F1チームに例えると、監督は目指す目的地を示し、コーチは目的地までどうやって行くかを模索する。S&Cコーチはエンジンを大きくしたり、メディカルは各部品のネジの緩みはないか、部品を点検交換する。示された目的地に対して、「この作戦で」「速く」「強く」と指示が出たドライバーに対して、「ではどうするのか?」具体的な運転方法を伝えることが僕の役割です。

一般的に、スピードコーチはスポットコーチのイメージがあるかもしれませんが、それとは違い、個人のスピードの最大化とチームの戦術・戦略にコミットします。仕事はご縁があって声をかけていただくことがほとんどで、僕の仕事は知らない人が多いので、はじめて来たばかりのときは、「何をする人なの?」というような冷たい視線を受けたこともあります。

しかし、実際に関わっていくと、「それがやりたかった!」「たしかにこうすると速い!」と、徐々に皆さんと仕事を共有できているように思いますし、「チーム1年間で、いやもう3年計画でお願いしたい」と言ってもらえ、契約に結びついています。

―――お仕事をされるうえで大切にしていること、最高の瞬間を教えてください。

 仕事をしているうえで大切にしていることは二つあります。一つ目は“情熱”。勝負に対してや、指導に対しての情熱という意味もありますし、一つひとつの動きに対して、覚悟を持ってアプローチすることです。ここは僕の中で大事にしています。

例えば、クライアントがゴールドメダリスト、世界チャンピオンだから真剣に、アマチュアだから手を抜いてやるのではありません。少しでも仕事や準備に対して自分の熱さが変わるようであれば、僕はこの仕事から手を引かなければいけないと思っています。自分が一日の中で何回成長できるかということを大切にしています。

二つ目は、“いかに見逃さないか”ということをポイントにしています。素晴らしい指導者の方はそれぞれ細かな理論を有していますが、共通して言えることは、常に本質であり、起こる現象を見逃さない。どんなことであっても見逃すか、見逃さないか。ここには大きな差があると感じていて日々意識しています。

この二つを大切にしています。これまでの中で最高の経験について言うと、毎日なので決められないです(笑) あえて言うのであれば、大観衆の度肝を抜いた瞬間かなと思います。何万人もいるスタジアムが一瞬水を打ったように静かになる。

これは感動したというより、興奮しました。絶対に不可能だと言われていたことを可能にした。選手のおかげでできたことで、すごく嬉しく思いました。選手から「ありがとうございました」と感謝してもらえたことも、なにより最高の経験です。僕は選手に対して、勝たせたいとは思わなくて、一緒に勝ちたいと思っています。

これからのスポーツ界とバックアスリートを目指す学生へのメッセージ

―――実際に里さんと同じような形で活動されている方々は日本ないし、世界にはどの程度いると認識されていますか。また、スポーツ界も東京オリンピックを機により発展していくと考えますが、これからの日本についてどう考えられますか?

里 いろいろな国に行きましたが、僕のような仕事をしている人に出会えたことがありません。ヨーロッパでは、こういう活動をしている人がいないと言われました。スピードコーチは、陸上の経験者であり、そのチームや個人に指導されています。

大きく違うのは、年間を通じてコミットし続けること、パフォーマンスの構造自体の設計ができることです。その種目の技術や監督のやりたい攻撃や守備全体の速度など、常に質を上げる必要があるので難しい仕事だといえます。そういう意味では、海外やナショナルチームのスタッフを見た中でも、まだ仲間がいないような状態なので寂しいですね。

日本のスポーツについて、僕が言える立場ではありませんが、リオ五輪と東京五輪のときと比べて思うのは、さまざまな情報やコミュニケーションが活性化されているがゆえに、クローズドだった世界がオープンになっていると感じます。

それは組織でも言えますし、個人のマインドも含めてそう思います。僕らが現役時代のアスリートは内へ内へ矢印が向いていて、「負けたら終わり」というような、クローズドなマインドがありましたが、いまは違う。前大会から今回の東京での結果を見ると、組織も個人もオープンになっている種目は、かなり結果が出たなという印象です。

多くの種目に関わらせてもらっていますが、そこは感じています。今まではコーチが選手に対して情報を持ってくる時代だったのが、今は選手も情報を得ています。双方向から情報とリンクしている。コーチもさまざまな勉強をしている時代です。

また、これまでであれば、業種の繋がりの中での情報収集だったと思いますが、現在は種目を越えて、みんながスポーツをやっているという状態になっています。アスリートのマインドやアスリートのあり方がすごく良くて、むしろコーチがアスリートに置いていかれないように、オープンなマインドを作り続けることが一つのポイントです。

技術的な話で言うと、さまざまな分野が細分化されてきたものが、一段落したように感じています。結局、細分化したものが全部いいかと言われると、そうじゃない部分が出てきたからです。ここの部分は超細分化していく、ここはこのままでOKというように、二つが共存し始めている。それは、選手のパフォーマンスについてもいえますし、再現性という意味ではかなり高まってきていると思います。

―――バックアスリートを目指したいという学生の方々に何かアドバイスや、こんなことを心掛けるとより良いということを教えてください。

 僕の中で大事にしていることの一つに、期待と後悔を翌日に持ち越さないっていう決め事があります。明日になったらこうなるかもしれないと期待するのであれば、その日のうちに全部やる。現在、学生の皆さんにはネットワークもありますし、コミュニケーションツールもあります。

「あっ」と思ったときに行動していくことです。僕もたくさんの人に「すごい技術ですね」とか、「どこで学んだんですか?」と言われますが、学びの根本というものはなくて、追求し続けていった結果が今になっています。本当に才能があって成功する人もいると思いますが、僕の場合は、みんながやらなくなったことを最後までやっていただけの話です。

いま、大切にしている言葉があります。一緒に仕事をしている監督が教えてくださった“凡事徹底”。その意味は、「当たり前に誰もができることを、誰もができないぐらい徹底する」ということです。すごくいい言葉だなと思いました。

僕は華々しいデビューをしたわけでもなく、誰もができることを誰もできないぐらい徹底して、やってきたからこそ、今があるのかなと思います。やりたいことが見つからないとか、どの業種に挑戦すればいいのかわからないという相談もよく聞きますが、僕が伝えたいことは、いつか気持ちが変わってもいいから、いまこの瞬間に「こうだ」と思ったことに対して100%でやらないといけないということ。

80%でやっていたら、次のフェーズに到達しても、結局80%のまま。そのため、1日でも100%で行動することを意識して欲しいと思います。

 

今後のビジョン、これからに向けて

―――今後の里さんのビジョンといいますか、どこを目指して舵を取られていくのか教えてください。

 自分の中にある技術をどういうふうに上げていくか常に考えています。5年前、現在の立ち位置やポスト、そういったことに対してのイメージは全く想像していませんでした。今があるのは本当に一つひとつのことに対して100%でやってきた結果です。

そういう意味では、答えとして持っていませんが、ただ言えることは、説明できないことをどれだけ少なくするかということにチャレンジしていきます。そのミッションを遂行することにより、選手が救われて欲しいと思います。こんな動作をしてみたいと思っていても、やり方がわからない選手は多くみえます。走り方一つにしても、さまざまなステップや踏み切り動作などがあり、まだ言葉になっていないものはたくさんあります。

最近、メディカル側に立たれている方と話す機会も非常に多くなりました。選手のパフォーマンスが怪我をすることで劇的に下がってしまったと聞くと、パフォーマンスを上げることだけじゃなく、正しい動作やスキルの言語化によって選手の引退後の未来を守るようなこともできたらいいなと考えています。

 

―――目の前のアスリートや、目の前の現場を助けたいという思いがすごく感じられたお話でした。里さんが、常にその瞬間に全力を掛けていることがわかります。

 僕は、準備が全てだと思います。成功したけど、ギリギリまでやらなかったが故に自分のなかで納得できなかったことや失敗談もたくさんあります。そこの準備はすごく大事だなと思います。僕らが未来に対してできることは、準備以外何もない。それなら常に準備していく必要があります。

失敗しても今があるのは、皆さんの力を借りて、いまがあるから。僕を知らない人からすると「走り方を教えてくれる人」なのか、「ムーブメントコーチ」なのか、理解しにくいと思います。「パフォーマンスアーキテクトってなに?」と言われるといつも説明するのが難しいなと悩みます。

スピードコーチやスキルコーチ、SC、ディレクター。考えると、設計から職人みたいなことまでしています。つまり、「動くものが僕の対象物」になります。海外で仕事するにあたっても、何の種目が見られるのか聞かれたら「動きさえしたら、対象種目になります。むしろ動かない競技だとわからない」と伝えています。

僕の今後の課題は、口コミだけではなく、より多くの人に知ってもらうこと。より多くのコミュニティに触れるようなことをしていけたらいいなと考えています。しっかり技を磨いていきたいです。

 

プロフィール

 

里 大輔

株式会社SATO SPEED代表取締役

2021-2022シーズンの活動
日本ラグビーフットボール協会
NECグリーンロケッツ東葛(ジャパンラグビーリーグワン)
NECレッドロケッツ(Vリーグ)
明治大学ラグビー部
サンフレッチェ広島ユースチーム
GRIT NATION
さまざまな種目の国代表からジュニアまでの個人

指導実績
大学・実業団陸上競技部
ラグビー日本代表(15人制、男女7人制、U20・U19・U18・U17)
ラグビートップリーグチーム
Jリーグチーム
Vリーグチーム
国内外のプロサッカー・ラグビー・陸上選手 など
ジャパンラグビーコーチングアワード2018 日本代表カテゴリーコーチ賞 The Sakura Coaching Award Of The Year

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